日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定 専門医在籍施設

慢性副鼻腔炎(ちくのう症)

慢性副鼻腔炎とは?(蓄膿症との関係・原因)

慢性副鼻腔炎とは、鼻の周囲にある「副鼻腔(ふくびくう)」の粘膜に炎症が長期間続き、膿(うみ)が溜まってしまう病気です。一般に症状が3-4週間以上続く場合、急性ではなく慢性副鼻腔炎と定義されます。

慢性副鼻腔炎は、昔から俗に「蓄膿症(ちくのうしょう)」とも呼ばれてきました。つまり蓄膿症とは慢性副鼻腔炎のことで、名前のとおり副鼻腔に膿が蓄積する状態を指します。

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)が起こる原因は一つではなく、複合的な要因が関与します。多くは急性副鼻腔炎が治癒しなかったことがきっかけですが、適切に治療しないでいると炎症が長引いて慢性化してしまいます。

特にアレルギー性鼻炎(ハウスダストや花粉症)や気管支喘息を持つ方は鼻粘膜の炎症が治まりにくく、慢性副鼻腔炎へ移行しやすい傾向があります。

また、鼻中隔弯曲症(鼻の仕切りのゆがみ)や鼻茸(はなたけ、鼻ポリープ)など鼻の構造上の問題がある場合も炎症が悪化・遷延しやすい要因です。

喫煙習慣のある方も注意

タバコの煙による有害物質が鼻の粘膜を直接刺激して防御機能(線毛運動など)を低下させるため、喫煙者は副鼻腔炎になりやすく治りにくい傾向があります。実際、受動喫煙や電子タバコでも同様に鼻の粘膜に炎症を起こし、副鼻腔炎の治りを妨げることがわかっています。

また、上の奥歯の虫歯や歯の根の感染が鼻の横の上顎洞(じょうがくどう)に波及して副鼻腔炎を起こすケース(いわゆる歯性副鼻腔炎)もあります。この場合、いくら鼻の治療をしても原因の歯を治療しない限り副鼻腔炎は良くならないため、歯科治療との連携が必要になります。

このように原因や悪化因子は様々ですが、適切な治療を行えば炎症を鎮めて症状を改善させることが可能です。

主な症状

〜慢性副鼻腔炎の症状と副鼻腔炎による頭痛〜

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の症状は、鼻や顔の不快症状だけでなく全身にも及ぶことがあります。急性の副鼻腔炎に比べて症状は比較的マイルドでも長期間持続するのが特徴です。主な症状として、次のようなものが現れます。

鼻づまり(鼻閉)

鼻粘膜の強い腫れや膿により常に鼻の通りが悪くなります。慢性化した副鼻腔炎では粘膜の肥厚や鼻ポリープ形成によって空気の通り道が狭まり、慢性的な鼻づまりに悩まされます。鼻で息がしにくいため、睡眠時にいびきをかいたり口呼吸になってノドが乾燥することもあります。

鼻水・膿の混じった鼻汁

濃い黄色〜緑色の膿性の鼻水が長引くのも特徴です。急性期には匂いの強い膿が混じった鼻汁が出ますが、慢性副鼻腔炎になると膿が粘膜にこびりついて排出されにくくなるため、白っぽく粘り気のある鼻水に変化することがあります。

後鼻漏(こうびろう)

鼻汁がノドの方へ流れ落ちる症状です。副鼻腔から膿が鼻の奥を伝ってノドに滴り落ちるため、常にノドに違和感を感じたり、痰が絡む原因になります。慢性副鼻腔炎ではこの後鼻漏が続くことで口臭(悪臭のある息)の原因になることもあります。ノドに落ちた膿が気管支を刺激し、慢性的な咳や痰が出ることもあります。

頭痛・顔面の痛み、重い圧迫感

額や目の周囲、頬などに鈍い痛みや重苦しい圧迫感を感じることがあります。いわゆる副鼻腔炎による頭痛で、慢性副鼻腔炎の場合は急性期のような激しい痛みは少ないものの、額を中心とした重い頭痛や頭重感が長期間続く傾向があります。

頬の奥が詰まったような違和感や、上の奥歯の痛みを感じる人もいます(上顎洞が炎症を起こすと歯の神経に響いて痛むことがあります)。

嗅覚障害(においがわからない)

匂いを感じ取る嗅細胞がある鼻腔奥に鼻汁が詰まって塞がったり、粘膜まで炎症が及ぶため、においが感じにくくなる、全くわからなくなることがあります。慢性的な炎症で嗅覚をつかさどる神経がダメージを受けると、治療後も匂いが戻りにくくなる場合があるため注意が必要です。早めに治療して炎症を抑えることで嗅覚障害の後遺症を防ぐことができます。

その他の症状

慢性副鼻腔炎では高熱が出ることは稀ですが、炎症が長引くことで全身のだるさ(倦怠感)や微熱、集中力の低下などの不調を訴える方もいます。常に鼻が詰まっていることで睡眠の質も下がりがちになり、日中の仕事や家事に支障をきたすこともあります。症状が数ヶ月以上続く場合や、風邪のたびに鼻や頭の症状が悪化・長引く場合は蓄膿症を疑い、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。長引く鼻づまりや膿の混じる鼻水は、決して「ただの風邪」と放置せず専門医の診察を受けることが大切です。

放置するとどうなる?考えられるリスクと合併症

慢性副鼻腔炎を放置することは非常に危険です。「たかが鼻づまり」と侮って治療せずにいると、症状が長引くだけでなく様々な合併症を引き起こす恐れがあります。副鼻腔は眼や耳、脳に近接した位置にあるため、鼻の炎症が広がると周囲の重要な器官に悪影響を及ぼす可能性があるのです。

放置によって懸念される具体的なリスクには次のようなものがあります。

  • 慢性的な症状悪化と生活の質の低下
    • 鼻づまりや頭重感、嗅覚低下などの症状が長期間続くと、睡眠不足や集中力低下につながり日常生活の質(QOL)が著しく低下します。慢性副鼻腔炎の患者さんは、「いつも頭が重い」「匂いが分からず料理の味付けができない」「常に痰が絡んでノドが不快」など、日常でストレスを感じる場面が増えてしまいます。適切な治療なしに症状が続くと、こうした不快症状による仕事や家事への支障が大きくなり、精神的にも負担となります。
  • 再発の繰り返しと難治化
    • 副鼻腔炎の原因自体(細菌感染やアレルギー、歯の炎症など)を取り除かない限り、炎症は何度でもぶり返します。一度慢性化すると完治しにくい体質になってしまい、風邪を引くたびに副鼻腔炎が再燃するという悪循環に陥りがちです。特にアレルギーが関与するタイプの副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎と呼ばれる難治性のもの)は、放置すると鼻茸が次々と再発して炎症が慢性化・重症化しやすくなります。この場合、専門的な治療を行わないと自然には良くならないため、放置は禁物です。
  • 鼻ポリープの増大
    • 慢性炎症が続くことで鼻腔内にポリープ(鼻茸)がどんどん大きくなり、鼻の通気路を塞いでしまうことがあります。ポリープが増大すると薬物治療では縮小せず外科的に取り除く手術が必要になるケースもあります。ポリープがある状態で放置すると鼻づまりがさらに悪化するだけでなく、後述するような重篤な合併症のリスクも高まります。
  • 耳への波及(中耳炎)
    • 副鼻腔と耳は「耳管」という管で間接的につながっています。鼻の奥の炎症が周囲に広がると中耳にも波及し、中耳炎を併発することがあります。中耳炎になると耳の痛みや発熱、耳閉感(耳が詰まった感じ)などの症状が現れ、聞こえにくさ(難聴)の原因にもなります。特に鼻かぜをこじらせた子供では副鼻腔炎から中耳炎を起こしやすいですが、大人でも慢性副鼻腔炎を長引かせることで慢性的な滲出性中耳炎(耳に液体が溜まる中耳炎)を引き起こすことがあります。
  • 眼への波及(眼窩内合併症)
    • 副鼻腔の一部は眼球のすぐ周囲に位置しています。蓄膿症を放置して膿がたまり続けると、眼球の周囲に感染が及ぶ危険があります。副鼻腔炎が原因で眼の周囲に膿が広がると眼窩蜂窩織炎(がんかほうかしきえん)や視神経炎を起こし、瞼の腫れ・眼痛・複視(物が二重に見える)などの症状が出現します。最悪の場合、視力障害や失明に至るケースも報告されています。実際に「蓄膿症が原因で失明した」というケースは非常に稀とはいえ、可能性がゼロではないことを念頭に置かなければなりません。
  • 脳への波及(頭蓋内合併症)
    • ごく稀ではありますが、副鼻腔で増殖した細菌が骨を越えて脳内にまで達してしまうケースも報告されています。副鼻腔炎が原因で起こる代表的な頭蓋内合併症には、髄膜炎(頭や脊髄を包む髄膜の炎症)や脳膿瘍(脳内に膿が溜まる重篤な感染症)があります。これらは命に関わる非常に深刻な合併症で、万一発症すれば緊急の治療(外科的排膿や集中治療管理など)が必要となります。副鼻腔炎から髄膜炎・脳膿瘍に至るケースは極めて稀ですが、「鼻の病気だから放っておいても大丈夫」という油断は禁物です。
  • 思わぬ疾患の見逃し
    • 鼻づまりや鼻水が長く続くのは、副鼻腔炎以外の病気が潜んでいる可能性もあります。例えば副鼻腔にできる腫瘍(良性の鼻腔内腫瘍や稀に悪性腫瘍)や真菌症(副鼻腔真菌症)などでも蓄膿症に似た症状が現れます。慢性副鼻腔炎と思って放置していたら実は腫瘍だった、というケースも皆無ではありません。専門医で検査を受ければこうした疾患との鑑別もできますが、市販薬で症状をごまかして受診が遅れると重篤な病気を見逃すリスクも高まります。長引く鼻・ノド・顔の症状は自己判断せず、一度しっかり検査を受けることが重要です。

以上のように、蓄膿症を放置することは慢性的な苦痛の持続だけでなく、重大な合併症につながるリスクを孕んでいます。特に原因によっては、何ヶ月経っても自然に良くなることは期待できない場合もあります。慢性副鼻腔炎は適切に対処すれば決して治らない病気ではありません。症状が少し良くなったからといって安心せず、専門医の指示のもと完治するまで根気強く治療を続けることが大切です。

よくある質問

蓄膿症のときにやってはいけないことはありますか?

蓄膿症(慢性副鼻腔炎)と診断された後、あるいは「もしかして蓄膿症かも?」という症状が出ている段階でも、喫煙・飲酒、鼻水をすする、鼻を強くかみすぎる、鼻ほじりなど悪化させる行動は避けてください。症状をこじらせたり治りを遅らせる原因となります。

慢性副鼻腔炎は自然に治りますか?

慢性化した副鼻腔炎が自然に完治することは稀です。急性の副鼻腔炎であれば適切な治療や安静により比較的短期間で治ることもありますが、慢性副鼻腔炎は何らかの原因で炎症が長引いてしまった状態です。一度慢性化した炎症は、原因となっている細菌や粘膜の腫れ、鼻茸などを取り除かない限りなかなか治まりません。

特にアレルギーや鼻茸が関与する蓄膿症では、自然軽快することは一般的ではないので、治療せずに完治を期待するのは難しいでしょう。

ただしご安心ください。慢性副鼻腔炎は専門的な治療を受ければ改善が十分見込める病気です。適切な薬物療法や必要に応じた手術によって膿を除去し炎症を抑えれば、多くの方で症状が大きく軽減・消失します。実際、「ずっと鼻が詰まっていたのが治療で息苦しさがなくなった」「長年匂いがしなかったのに嗅覚が戻った」という患者様もたくさんおられます。大切なのは自然治癒を待つのではなく、早めに耳鼻咽喉科を受診して根本的な治療を開始することです。

慢性副鼻腔炎の治療にはどれくらい時間がかかりますか?

慢性副鼻腔炎の治療期間には個人差がありますが、数ヶ月単位の長期戦になることを念頭に置いてください。急性副鼻腔炎であれば1〜2週間の抗生剤治療で良くなることもありますが、慢性の場合は炎症がこじれているため数回の通院や短期間の内服だけで治ることはほとんどありません。

一般的には3ヶ月程度は継続治療が必要になるケースが多いです。症状や治療内容にもよりますが、例えばマクロライド療法であれば3〜6ヶ月ほどの内服継続、手術加療を行った場合でも術後少なくとも3ヶ月はお薬で炎症を抑えるアフターケアを行います。

症状が改善してくると途中で治療をやめたくなるかもしれませんが、自己判断で中断せず医師の指示通り通院・服薬を続けることが完治への近道です。ご自身の生活パターンに合った通院計画を医師と相談し、無理なく治療を継続しましょう。

早めの受診で慢性化を防ぎましょう

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)は適切な治療によって必ず改善が期待できる病気です。反対に、治療が遅れると炎症が長引いてしまい完治までに時間がかかります。

鼻づまりや膿の混じった鼻水、顔面の違和感や頭痛など「もしかして蓄膿症かな?」と思う症状がある方は、できるだけ早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。

忙しいビジネスパーソンの方も、市販薬で症状を紛らわせながら無理を重ねるのではなく、専門医の診察を受けてください。慢性副鼻腔炎は放置すると再発を繰り返したり、嗅覚障害など後遺症が残る可能性もありますが、早期に適切な対処をすれば決して治らない病気ではありません。つらい症状を長期間我慢する必要はないのです。

田中外科医院では耳鼻咽喉科の専門医が在籍し、慢性副鼻腔炎の診療に豊富な経験を有しています。副鼻腔の状態を的確に評価し、患者様一人ひとりの症状に合わせた最適な治療プランをご提案いたします。

「長引く鼻の不調を何とかしたい」という方はお気軽にご相談ください。